漢詩に遊ぶ3

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漢詩に遊ぶ3
 
十七篇

 


すぎゆくはるを ただひとり

おしんでいれば ひとはみな

ちりしくはなを ふみちらし

いおりのまえを ゆきすぎる

 

    紅樹青山日欲斜 長郊草色緑無涯

    遊人不管春將老 來往亭前踏落花  豊樂亭遊春  欧陽脩

 

 

みたるものみな はるのいろ     はるのひかりに みちあふれ

はなさきやまは わらえども     きぎはみどりに あかいはな

しずみがちなる わがこころ     だけどこころは しずみがち

うぐいすなけよ こえしげく     ああうぐいすよ ないてくれ

 

    滿眼春光色色新 花紅柳緑総関情

    欲將鬱結心頭事 付与黄□叫幾回  朱淑真


みどりのたにを みおろして

はしのちかくに きみのいえ

ひもうらうらと べつせかい

はなのかおりと とりのこえ

 

    橋畔垂楊下碧溪 君家元在北橋西

    來時不似人間世 日暖花香山鳥啼  夏日田園雑興  范成大

 

 

うめやあんずは みをつけて

むぎのはなさく きせつです

ひともとおらず ひるさがり

とぶはとんぼや あげはちょう

 

    梅子金黄杏子肥 麦花雪白菜花稀

    日長籬落無人過 惟有蜻□□蝶飛


あつさにまけて いけのそば

ようてよかぜが ありがたい

ほしふるいけを とおりあめ

さっとかすめて すぎてゆく

 

    殘杯移傍水邊亭 暑氣衝人忽自醒

    最喜樹頭風定後 半池零雨半池星  避暑山園  王世貞

 

 

ゆきがなければ ものたりず

うたもなければ つまらない

ゆうぐれどきに うたとゆき

これでよいよい うめのはな

 

    有梅無雪不精神 有雪無詩俗了人

    薄暮詩成天又雪 与梅併作十分春  雪梅  方岳


なぜにまくらの つめたいと

みやるまどべの あかるさよ

よふけてつもる ゆきおもく

おりしもたけの おれるおと

 

    己訝衾枕冷 復見窗戸明

    夜深知雪重 時聞折竹聲  夜雪  白居易

 

 

じつにみごとな にわですなぁ

いやいやさけはぁ いりません

きづかいむよう ごしゅじんよ

わしのさいふにゃ かねもある

 

    主人不相識 偶坐爲林泉

    莫謾愁沽酒 嚢中自有錢  題袁氏別業  賀知章


いちねんすぎて おもいだす

みんなのえがお はなのした

けれどもみんな もういない

ただはるかぜと もものはな

 

    去年今日此門中 人面桃花相映紅

    人面不知何處在 桃花依舊笑春風  題都城南荘  崔護

 

 

まいとしはるは くるけれど

ひゃくさいまでは いきられん

いまがさかりの はなならば

さけをかうべし くらうべし

 

    一年始有一年春 百歳曾無百歳人

    能向花前幾回醉 十千沽酒莫辭貧  宴城東荘  崔敏童


やまはみどりに うぐいすよ     はなよみどりよ うぐいすよ

ちゃみせのいすに こしかけた    ぢざけにであう たのしみに

ふるいみやこに てらおおく     ふるいみやこの てらのかず

あめにけぶるは とうのかげ     あめにけぶるは とうのかげ

 

    千里鶯啼緑映紅 水村山郭酒旗風

    南朝四百八十寺 多少樓臺煙雨中  江南春  杜牧

 

 

ちいさなかわと たけばやし

つゆおくくさの やわらかに

ひねもすながめ あきやらぬ

とりのねもなく やまのいえ

 

    澗水無聲遶竹流 竹西花草露春柔

    茅簷相對坐終日 一鳥不啼山更幽  鐘山  王安石


こさむいよるに きゃくがきて

さけのかわりに ちゃをたてる

いつもかわらぬ けしきゆえ

ひとえだうめの かおりそえ

 

    寒夜客來茶當酒 竹爐湯沸火初紅

    尋常一様窓前月 讒有梅花便不同  寒夜  杜耒

 

 

ゆびおりかぞえ まつこのひ

はるたちきぎは めぶくかな

かなたのそらに とりさりて

みなもにはねる みずのおと

 

    一二三四五六七 萬木生芽是今日

    遠天歸雁拂雲飛 近水遊魚迸冰出  京中正月七日立春  羅隠


さくやのあめに はなあかく

かかるかすみは やなぎいろ

もものはなびら ちったにわ

われうぐいすに めざめけり

 

    桃紅復含宿雨 柳緑更帯春烟

    花落家僮未掃 鶯啼山客猶眠  田園樂  王維

 

 

ひとなきにわの つきあかり

しもふるごとく さえわたる

あおぎりのはの まだおちず

がさごそかぜに おとたてる

 

    庭戸無人秋月明 夜霜欲落氣先清

    梧桐真不甘衰謝 数葉迎風尚有聲  夜坐  張耒


あんずのはなの さくむらは

かわのほとりに いえすうこ

ひとかげもなく ひはくれる

うしがねそべる むぎばたけ

 

    杏花一孤村 流水數間屋

    夕陽不見人 □牛麥中宿  水彩風景  紀映淮

 

 

酒と火と暮れて雪降る気配かな

 

    緑蟻新□酒 紅泥小火爐

    晩來天欲雪 能飲一杯無  問劉十九  白居易

 

 

 


付録

 

春愁や鶯鳴けよ声しげく

囀りの聞こえて谷の深さかな

雪なくて何の風情ぞ梅の花

鯊釣りの帰り楽しや酒気に風

 

 例えば「夜坐」の結句を「がさごそかぜに おとたてる」としたが元の漢詩は「数葉迎風尚有聲」だ。漢字ばかりでいかにも硬い。

 白居易の「夜雪」は「己訝衾枕冷 復見窗戸明 夜深知雪重 時聞折竹聲」だが「ふるゆきや おりしもたけの おれるおと」で十分だ。言葉、文字や詩形のありがたさを感じると同時にこうして俳句形式にすることのできる漢詩に心は同じなのだと親しみを覚える。